トップページに戻ります




  
雑貨人生20数年の想い出、感じたこと、創作を愛する人へのエール といった感じのエッセイです。
雑貨屋KUMAのエッセイ 「雑貨想い出帖」 バックナンバー

   Vol,14〜Vol,59

(14以前は保存してありません)


第24回
「仕事の道具にはこだわらない」
(2002年11月1日UP)

今回はちょっと趣向を変えて、仕事に使う道具に対する私の考え方、といいますか方針といいますか、ようするにあまりこだわっていないということをお話してみましょう。

レジンで作品を作るには、特に専門の道具というのは必要ありませんし、高価な機械類もいりません。 主剤と硬化剤を混ぜ合わせるカップと棒があれば、すぐにでも始められます。
加工するにしても、カッターナイフとサンドペーパーがあれば、たいていの作業はできてしまいます。

大工や指物、ガラスなど、業種によっては専門の道具や器具を必要とするものもあるでしょうし、その道具もいい物の方がいいということもあるかと思いますが、レジンに関してはそんなことはないんですね。 まぁせいぜいデジタルはかりくらいですか。それも絶対無いとできないというわけでもありませんしね。 なんとまぁ気楽な商売ですな。

専門の道具が必要でない上に、私が使っているものはどれも安物ばかりで、まったくお恥ずかしいくらいです。 ホームセンターなどに行くと、すぐにワゴンのセール品あさりを始めます(笑)
私が使っているものはほとんどそんなセール品ですよ。 高かったのはルーター(小型のドリル)くらいかな。 これは18,000円くらいしましたか。 ずいぶん悩みましたが、どうしても必要だったので思い切って買ったものです。

安いものが好き、ということもありますが、それ以上に 「道具にこだわるのが嫌い」 なんです。
いい物は使い勝手がよかったり、長持ちしたりすることはわかっています。 それでもそうした物を買って使いたいとは思わないですね。
自分で言うのもなんですが、私は決して 「ケチ」 な人間ではありません。 仕事に関してはむしろ浪費家といってもいいくらいに、どんどんとお金をかけます。 新作のカラーテストなどでは、20〜30個も作って捨ててしまうこともあります。 それでも道具にはお金を使いたくないんです。

それには理由があるんですよ。
古い話です。 私が小学生の時に、版画家の棟方志功氏のドキュメンタリー映画を観る機会がありました。
ご存知の方も多いと思いますが、氏はこれまでの概念とはまったく違う版画の世界を創りあげ、素晴らしい作品をたくさん遺されました。 その作品製作風景を中心とした映画でした。

子供心にその迫力に圧倒されたのを覚えています。 しかしそれよりも強く印象に残ったのは、棟方氏が使っていた彫刻刀や、彫りつける板でした。
実に粗末な物をお使いになっていたんです。 彫刻刀は小学生が使う、コクヨの一番安いものでしたし、板はベニヤ板でした。
驚きました。心底驚きました。 私は当時5年か6年生で、版画や木を削ったりすることが好きで、板はどういうものがいいとか、彫刻刀もいい物のほうがきれいに削れるとか、生意気にも考えていました。 ところが天下の版画家が使っていたのは、自分の持っているものよりも安物だったんですから、驚いたのは無理もないと思います。

映画の中で棟方氏は、板に目を押し付けるようにして刀をはしらせて、板を削っていました。 削っていた、というよりベニヤの表面をはがしていた、というほうが近いような、そんな彫り方でした。
彫っている手元を映し出しても、それが何を彫っているのかわからないほど、手は何かにとり憑かれたかのような動きをしていました。
そうして彫り上げたものに色を付けて刷ると、そこに「神」が現れるのです。
少年の私にとってそれは衝撃的でした。 あんな粗末な道具でも、作り手によっては素晴らしい作品を生み出すことができるんだ。大切なのは道具じゃない、心の中だ。 そんなことがおぼろげにわかった気がしました。

版画に限らず、習字でもそろばんでも野球でもなんでもそうでした。 上手な人はどんな道具でもうまく使いこなすことができる、というより、そういう人が「上手」というのだと、頭に刻み込まれたのですね。
「自分もそうなりたい」、そう思いました。 道具の良し悪しに関係なく、素晴らしい仕事のできる人になりたい、そういう気持ちは今もあり、それで道具にこだわるのが嫌いなのです。
必要なものには惜しまずに金をつぎ込み、さほど必要でないものは安いものをうまく使いこなす、これが仕事に関しての私のモットーです。

またもう一つにはお金をかけなくても、自分のアイディア次第で高価な道具と同じこと、あるいはそれ以上のことができる、ということもありますね。
「Howto」の中でもそうした私のアイディアが、いろんな作業に登場するのをご存知の方も多いと思います。
「金はないけど、アイディアはある」 というのが私の口癖です。 お金を出せばすむところを、自分なりの工夫で安く、しかも高価な道具を買う以上の働きをするものを、作ったりすることが好きなんです。
そんなふうにして作った道具がすべてうまく機能するわけではありませんが、それをさらに改良をしたりするのも楽しみのひとつになっています。 もう、根っから 「物作り」 が好きなんですね。
完成品よりもその工程、作っては改良し、さらにまた改良を施していく、そういう工程がなんともいえず楽しいのですよ、私には。

仕事だけじゃないですね、趣味のほうでも同じですよ。
たとえば私は川釣りが好きなんですが、竿は2回値下げされたような 「駄竿」 を使っています。 針も糸もおもりもみんな一番安いものです。 そんなものでもアイディア、テクニックで結構釣れますよ。
頭からつま先までカタログから抜け出てきたような人が、カーボンロッドの高そうな竿なんかで釣っている横で、安物づくしでひょいひょいと釣れるときの楽しさは格別です。ははは (やなヤツ 笑)