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雑貨人生20数年の想い出、感じたこと、創作を愛する人へのエール といった感じのエッセイです。
雑貨屋KUMAのエッセイ 「雑貨想い出帖」 バックナンバー

   Vol,14〜Vol,59

(14以前は保存してありません)


第42回
「テキスト本制作の舞台裏」
(2003年8月1日UP)

今回はテキスト本完成記念(?)としまして、お話がきてから完成までの一部始終を、多少まずいところはカットしながらお話してみましょう。

ONDORI社さんからのお話は、4月20日頃届いたメールからでした。 我家には新聞社や雑誌社から、「広告を出しませんか?」という電話が時折かかってくるので、メールでこうしたお誘いをいただいたことが、なんだか不思議な気がしましたね。
その時点ではまだ企画が立ったばかりで、編集会議でその企画が通るかどうかわかりません、という段階で、もし企画が通った場合、監修をしてくれますか?というお話でした。

私は以前から活字でのテキスト本の必要性を感じていましたから、一も二もなく「いいですよ」とお返事をしました。
ネット上を検索できる人であれば、検索サイトを通じてこのサイトにたどり着くことができるでしょう。 サイトに来ていただければ、「Howto〜レジン教室」や、「Let’s make!」を見ていただいたり、メールや掲示板で質問していただければ、どんなことでもお答えすることができます。
しかしみんながみんなネット環境にあるわけではありませんから、やっぱり本も必要なんですね。
そこで私はいかに今レジンが注目されているか、いかにレジンが楽しいかをメールでお送りし、是が非でも企画を通してもらおうとがんばりましたよ。

これまでにもNHKの「おしゃれ工房」で、私を含めて何人かの作家さんが、レジンでの作品作りをご紹介しています。
しかしその内容は決して満足のいくものではありませんでした。 私自身まだ若すぎましたし、その時のテーマも私には向いていないものでしたから、レジンの楽しさを十分にお伝えできたとは言えない内容でしたし、ほかの作家さんにいたっては、ほとんどレジン初心者と言っていいくらいの知識と技術しかお持ちでなく、テレビを観ながら「あ〜あ、あんなことやっちゃったらさぁ・・・・」、というレベルでしたから、そのテキスト本自体、意義があるどころか、かえってマイナスにしかならないものでした。
現に今回ONDORI社さんでテキスト本の企画が通り、編集の女性Nさんが我家に来て打合せをした際、おしゃれ工房のテキスト本を参考にお持ちになり、それを見ながら作業工程をチェックすることから始めましたが、そのほとんどの工程が「ダメ」でした。 Nさんも「みんなダメ出しですね!」と驚いていましたよ。

私にもっと力があれば早くにこうしたお話があったと思うのですが、まぁこれもネットのおかげですね。 Nさんも監修をしてもらえそうな作家を探し探して、ようやくわがサイトにたどり着いたとおっしゃっていました。
嬉しいことに企画が通り、前に書きましたように、ゴールデンウィーク前から打ち合わせが始まりました。
Nさんはまだ若い女性でした。 ONDORI社に転職してきて間もなく、今度の企画が初めてだそうで、当人もかなり戸惑いといいますか、緊張をされていたようでした。 のほほんとした方でしたが(笑) したがって仕事は楽しかったですね。

前からテキスト本の必要を感じていたくらいですから、私の頭の中にはすでに本の流れが出来上がっていて、こう言っては失礼ですが、Nさんをそっちの方向に持っていくために、とにかくしゃべりまくりましたよ。
気になっていたアクセサリーは、ほかの作家さんが作ってくれるというので大安心でした。 これが一番気になっていたことで、それも私が作らなくてはいけない、ということでしたら、ちょっと考えちゃいましたね。 苦手なんですよ、アクセサリーは。

Nさんが「NHKの時はどのくらいの準備期間があったんですか?」と、おずおずと尋ねるので、「あの時は大変でした! なにしろテキスト本の撮影まで3週間しかなかったですから、その間の記憶がまったくないんですよ。 それくらい大変でした」と言うと、「すみません・・・うちの方が大変かもしれません・・・」とボソッとおっしゃいました。
うかがってみると、私が作るのはフラワーベース、フォトスタンド、鏡、時計、ペンダントトップで、余裕があったらソープディッシュもということで、それらをゴールデンウィーク明けまでに作って欲しいというご依頼でした。 なんだそんなものかと安請け合いをしましたが、エポキシレジンの硬化時間を考慮するのを忘れていて、あとで大変な想いをしましたよ(笑)

私が今回の本でやりたかったことは、まったくの初歩から、プロと同等のインテリア雑貨までご紹介することでした。
なぜかといいますと、もちろん1冊でなんでも作れる内容の方がいいから、ということが第一ですが、それともうひとつは、中途半端な内容にしたら、必ず後追いで大きな出版社に(ONDORI社さんが小さいというわけではありませんが)、マネをされてしまうという危惧があったからなんですね。
私以外にもレジンで物作りをされている方は、何人かいらっしゃいます。 そうした方にできないくらいの内容にしておきたかったんです。
なんだか威張ったような、意地の悪いような言い方ですが、私にはレジン成型の第一人者という自負があります。 これは10数年かけて築いてきた私のプライドです。
胃壁をすり減らし、神経を削って自分自身の手で得た技術に対するプライドが、人に簡単にマネはされたくなかったんです。

私のほかに2人のアクセサリー作家さんとNさんが、「Let’s make!1」を参考にして、初歩的なアクセサリーやキーホルダー、小物などを作るということでした。 もちろん2人の作家さんもNさんも、レジンはまったくの初心者でしたから、初心者向けの本という内容には合っていたわけですね。
そちらはお任せしておいて、さぁ自分の方も作らなくてはいけません。
まず原形を作る素材を、油粘土、石鹸、石膏粘土、石膏にし、封入する素材をドライフラワー、ゼリービーンズ、ガラス、レジンパーツにして、そのほかにフォグ染色法を駆使した物も作ることで、レジンが身近な物で楽しめ、しかも様々に応用が利く素材であることを、読者にわかっていただこうと考えました。

こんなこともできるのか、こんな風にもなるのかと、読んでいるうちに、抗なく一番むずかしい時計まで、気楽に読んでいただけるように、とても簡単な物から、徐々に工程を増やしていくようなサンプル作品にしました。
デザインに凝ると一般の方には入りにくくなりますから、ごく単純な線の作品にしました。 まぁ私の作品の多くは、こうした単純な物なのですがね。 ゼリービーンズミラーと時計(丸)はほとんどそのままですしね。
今回は私のデザインを見ていただく企画ではないので、染色したり、封入したりする楽しさが伝わればいいのですよ。

ですから作品のデザインはすぐにできました。 あとはどんどん作っていくだけです。 もちろんゴールデンウィークは休み返上です。 子供たちにもちゃんと説明してね。
頭の中でエポキシレジンの硬化時間を考えながら、作品を作っていきました。 あれを流し入れて固まるのを待っている間に、これをここまでやっておいて、その時ついでにあれもやっておこう、といった具合にですね。
起きてから寝るまでの時間を、まるでテトリスのように組み合わせて、少しの無駄もないように (そうしないと間に合わなかったので)、我ながらすごい勢いだ!と感心するほどのスピードで、作品を作っていきました。
ただし、原形の仕上げをいつものように、丁寧にしている時間はありませんでしたから、写真に写らない程度でOKとして、多少は妥協して作りましたけどね。
私は通常新作をひとつ作るのに、早くて数ヶ月、長い物では1年以上かかるので、とても数日で原形を作るなんてことはできないのです、ヘタだから。
まぁはっきり言って「ごまかした」わけですね。 普段からHP用の画像を撮っているので、これくらいのキズは写らないからよし!って感じでしたよ。

ひとつひとつの作品を、ツヤありとツヤ消しの2通り作りましたから、もう時間はいっぱいいっぱいでした。 「Howto11」にあるような、エポキシレジンを早く硬化させる方法を駆使して、すべて半日で固めました。 このあたりのカンと技術は我ながらすごいなと、ちょっと自慢でした(笑)
もちろん失敗もかなりありましたよ、フォグ染色法がうまくいかなかったり、途中でフラワーベースの作り方を変えて、原形作りからやり直したり、封入した花が気に入らなかったりね。
そうそうドライフラワーが大変でしたね。 いつもはシリカゲルに1週間ほど入れて乾燥させるのですが、そんなに時間はかけられませんから、ある程度乾いたら電球の熱で、強引に乾燥させました。
しかも一回成型で失敗していますから、もし次に失敗したらもう間に合わないので、絶対に失敗が許されなかったですから、かなり焦りましたね。 花探しも結構大変でしたよ。
花屋を見に行くと、立体的な花ばかりで、薄いフレームに封入できる物がありません。 しょうがないので庭や近所に咲いている花のうちから、作品に合いそうな花を探し回りました。
それで結局封入したのは、庭に咲いていたマーガレットとノースポール、山吹の葉、そして最後の最後にこれならと見つけたのは、たまたま原付で通りかかった空き地に咲いていた、ウマノアシガタというヘンな名前の野草の花でした。 名前はヘンですが、花の表面がセロファンのように、ピカピカとツヤがあって、とってもきれいな花なんですよ。
これらを速攻でドライにして、「これで失敗したらアウトだな」と思いながら、静かに静かにレジンに沈めていきました。
まぁなんとかうまくいってよかったですよ。

できた物からONDORI社に送って、OKかボツかを決めてもらうわけです。 残念ながらいくつかの作品がボツになりました・・・。 いいと思う物もあったのでちょっと残念でしたが、それは「Let’s make!」で紹介しましたからいいですけどね。
途中でひどい風邪をひいて、かなりつらい時期もありましたよ。 蓄積された疲労と風邪で、目の前がぐるぐる回ってましたから(笑) それでもなんとか間に合わせたんですから、さすがプロです(えっへん!)

すべての作品を作り終えて発送し、やれやれと思ったのもつかの間、Nさんから「雑貨が足りないんですぅ」と電話があり、やらないつもりでいたソープディッシュを、急きょ作ることにしました。
原形を作っている時間はありません。 撮影は明後日です!
苦肉の策として頭から飛び出てきたアイディアが、油粘土で型を作り、そこにレジンを流し入れて固めてしまおうという、今までまったくやったことがない作り方でした。
「Let’s make!1」の応用ではあるのですが、完成を想像して油粘土で型を作る作業は、なかなかむずかしかったですね。 むずかしかったですが、これが非常におもしろかったんですね。
これも強引に数時間で硬化させて、油粘土を取り除いていくんですが、これが楽しいんですよ、なんだか発掘でもしているようでね。 最後に食器用洗剤で、表面にこびりついた粘土を洗い落として、はじめて成型品が見られるわけで、「おお!こんなのがでてきた!」って、ちょっとした感動がありました。

ふたつ作ったうちのアクセサリートレーは、成型してみたら色が汚かったからボツにして、ソープディッシュだけ送る、じゃなかった、発送する時間はなかったので、新宿駅まで取りに来てと言って、時間を決めて待ち合わせました。
ところが時間になってもNさんは来ない。 おかしいなぁと思っていると、うしろから現れて「私そこでずっと待ってたんです」。 わずか5メートルの距離にいながら、お互いに気がつかなかったんですから、似た者同士ののん気者ですね。 まぁだから仕事は楽しく、うまくいったのでしょうね。 そう思いましょう。
これでようやくサンプル作品の制作は終了です。

さて今度は作業工程を説明する手元の撮影です。 「ボクじゃなくてもいいんじゃない?」と、なるべく面倒なことから逃げようとしたんですが、「やっぱり手つきがプロの方でないと」ということで、東京は神楽坂のスタジオに行きました。
こうした撮影は慣れているので、まぁだいたいこんな備品を持って行った方がいいだろうと、気楽な気持ちで、遊び半分で出かけて行きました。 が、待ち合わせの地下鉄出口が違った。 Nさんはどこまでものん気。
撮影はいい雰囲気で、とても楽しかったですね。 今はデジタルカメラなので、モニターを見ながら、使う画像をその場で決めていきますから、作業がとても早くて楽でした。 以前は一枚の写真を撮るのにも、アングルを変えたり、念のためもう一枚とか言って、かなり時間がかかりましたからね。
手元だけですからこっちは気楽なもんです。 Nさんがあたふたしているのを見ながらお菓子を食べて、お茶を飲んで、のんびりとしていました。
ただ右手の親指の付け根のところを、うちのウサギにかまれたキズがまだはっきりと残っていて、写っちゃうかなァ〜と思っていたらしっかり写ってました(笑) ほとんどわからないですけどね。

撮影が終わればあとは校正だけですから楽なもんです。 今度はNさんがパニックになる番です。 Nさんがせっせと書いた説明の文章を、「ここはこう直して」とか「こういう記述は誤解を招くから、こうして」とか、「こういう説明を入れて」とか注文をつけるだけですからね。 これはFAXでやりとりしました。
紙面のスペースが限られている上に、「この記述ははずさないで」とか「こういう説明がないとまずいんじゃない?」とか、いろいろと言うヤツがいるもので、Nさんはかなり大変そうでした。
出来上がった本を見て、あまりにうまくまとめてあるので感心しましたね。 もちろん省略された部分もかなりありますが、この内容で十分作品を作ることができます。
仕上がった本を見たときは、嬉しさよりも「やれやれようやく終わったか」という、脱力感の方が大きかったような。
もちろん内容には大満足ですよ! 写真がきれい!

今回サンプル作品を作る際に、その作業工程をほとんどすべてデジカメで撮っておきました。 あの忙しい最中によくできたと、我ながら感心してしまいますな。
その画像を使って、よりくわしく、わかりやすくするため、そして省略された箇所を補足するために、CD版のテキストを作りましたが、本の説明だけでも作ることはできますので、ご安心くださいね。