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雑貨人生20数年の想い出、感じたこと、創作を愛する人へのエール といった感じのエッセイです。
雑貨屋KUMAのエッセイ 「雑貨想い出帖」 バックナンバー

   Vol,14〜Vol,59

(14以前は保存してありません)


第58回
「ハンドメイドで食べていけるのだろうか?」
(2004年4月1日UP)

私はこれまで物作りだけでやってきました。 もちろん経済的には援助が必要でした。 幸い両親が仕事に理解を示してくれ、支えてくれたので今の私があるのです。
そういった意味では私はかなり恵まれています。 しかしだれもが同じように、支援を受けて物作りができるわけではありません。
ではハンドメイドで食べていくのは不可能なのでしょうか? 私はそうは思いません。
確かに物価も人件費も高いこの日本で、利幅の小さい物作りで食べていくのは非常に大変なことです。 しかし腕さえあれば、技術さえ身につければ、十分に食べていけると、これまでの経験から私は思うのです。

私は以前から、いきなり独立して、物作りだけで食べていこうとしないで、なにか正業を持ち、その趣味の延長として販売をしましょうと言ってきました。 それはなぜかというと、技術が身に備わっていない状態では、社会に出て食べていくことは絶対にできないからです。
例えば会社に入社したとして、新入社員は即戦力とはなりませんよね。 つまり会社にとっては利益を上げられない人材です。 しかしいろいろな経験をさせることにより、徐々に仕事を覚え、会社に利益をもたらす人材となっていくわけですが、それまでの間会社によって養われているのです。
会社という安定した環境があってこそ、仕事がわからなかった新入社員も、少しずつ仕事を覚えることができるのですね。 いきなりひとりで仕事を始めようとしても、それはほとんど不可能なことなのですよ。

これはハンドメイドでもまったく同じことが言えます。 腕もなく、販売ノウハウもない状態で、食べていけるはずがありません。 ですから技術を身に付けるまでは、収入の安定した正業を持ち、副業として手作り品の販売を始めるのが、理想的だと思うわけです。
収入がないと人はあせります。 あせった精神状態からは、決していい作品は生まれません。 ハングリーになることと、見えない明日にあせったり、苛立ったりすることは違います。 そういった意味でも余裕をもって創作ができる環境、まずはそれが大切なのです。
私にはそれがわからなかったのですね。 ですから周囲の反対に耳を傾けず、いきなり独立して大失敗をしてしまったのです。 つまり世間知らずの向こう見ずだったのですよ。

もともと好きで始めた物作りでしょうから、2〜3年も続けていれば技術もある程度身についてきますよ。 そして作品の販売も続けていれば、だんだんコツもわかってきますし、お客様のニーズに合った作品作りもできるようになっていくでしょう。 もちろんある程度の才能が必要なのは言うまでもないことですが。
ショップへの卸し、委託販売、ネットショップ、今は販売の形態も変わり、作り手にとってはありがたい世の中になりました。 すぐにたくさんの売上げを上げられるようになるわけではありませんが、まじめに、マメに取り組んでいれば、少しずつでもよくなっていくはずです。
でもまだ独立は早いですよ。

販売実績がある程度できて、技術も人に教えてあげられるくらいになって、初めて独立を考えましょう。 それまでは下積み、修行期間ですよ。
さて、もう独り立ちしても大丈夫という見極めがついたら、思い切って独立しましょう。 そして作品の販売だけでなく、教室も持ちましょう。 そうなのです、私はこれまでの経験から、教室を持つことが、収入を得る方法のひとつだということに気が付いたのですね。
そうして安定した収入を得ることで、あせることなく、落ち着いて創作を続ける環境を作ることができるわけです。 早くこのことに気が付いていれば、私の人生はまったく違うものになっていたでしょう。 もっとも教室を持たなかったから今があるわけで、やはり私にはこれがよかったのでしょうね。

教室を持つには当然技術がなければいけません。 ですからだれでもすぐに先生になれるわけではありません。
今、様々な講座がありますが、そうした講座を受講して、技術の認定を受けたらといって、それですぐに講師になれるほど世の中は甘くありません。 人より抜きん出た人が講師となるのですから、努力なくして認定などはなんの意味もないのです。 教室に来る生徒さんもお客様です。 技術もなしにお客様からお金をいただくわけにはいきませんよね。
だれしも苦労はしたくありませんよ。 でも物作りには近道はありません。 一通りできるようになっただけのインスタント講師など、だれも必要とはしないのです。
私も今講座を持ち、レジンの扱い方やインテリア雑貨の作り方をお教えしています。 もちろん認定制度もありますが、そんなものはどうでもいいと思っています。 認定は「箔」にすぎません。 技術や情熱とは別のものです。 もしその人にやる気と熱意があれば、認定書など受けなくてもやっていけるでしょう。 できればそうあってほしいと思っています。
なぜならお客様は講師の「箔」にお金を出すのではなく、技術を学ぶために通ってくるのですから。

教室を持ち、先生と呼ばれるようになっても、販売は続けなければいけません。 販売をしなければ、お客様の好みから離れていってしまうからです。
世の中のニーズに応えるためには、販売を通して絶えず自分の感性や、感覚を磨く努力をしていなければいけません。 世の中の好みとかけ離れた先生が、生徒さんになにをお教えすることができるでしょう?
教室を持つことは収入を安定させてくれます。 しかしお金をいただいた以上その方に対する責任が生じます。 その責任をまっとうするためにも、先生と呼ばれるようになっても、さらに上を目指す気持ちを忘れてはいけないと思いますね。 これは私自身への戒めでもあります。
人は安定した環境で、先生先生と立てられて、作る物はすべて羨望され続けていますと、居心地のよさに向上心を失いがちです。 私はそうなりたくないのです。 生徒さんはお客様であると同時に、私にとってライバルでもあります。 下からあがってくる人に負けたくはありません。 だからこれからも前だけを見て、上を目指します。 それが私に課せられた責任でもありますからね。

私が今理想と考える、ハンドメイドで食べていくための形態は、工房が教室でもあり、そしてショップでもある。 そしてその上ネットショップも運営する、ということですね。
別々に運営するのではなく、ひとつのスペースですべての仕事をすれば、それだけ経費は安く済みますし、時間的にもイメージ的にもプラスになると思います。 実際に私がそうしているわけではないので、あくまでも理想論ですが。

こうしていろいろな媒体や方法を用いて販売をし、自分の教室を持てばある程度までは収入を得て、物作りで食べていけるのではないでしょうか。 私のまわりには実際にそれを実践している方が何人かいらっしゃいます。
今の日本でハンドメイドで食べていくには、こうした方法が一番だと思いますし、この方法しかないとも思いますね。 これまでにも何度か言ってきましたが、これはアーティスト、芸術家の話ではありませんよ。 あくまでもお客様の身になって、ひとつひとつ手作りをする職人の話です。
利幅の小さな手作り品の販売に嫌気が差して、芸術家になって何十万円という作品を売ろうとする人もいますが、私はそうした人に興味はありません。 そうしたい人は「芸術家です」と言えばいいですが、まず成功しませんね。

世の中はひとりで生きているわけではないのですから、謙虚さを失って生きていけるはずがないのです。 何十万円という値段を付けられるのは、それだけの時間を費やした作品だけです。
上を目指す以上、孤高の作品も必要です。 しかしそれがメインになってはやっていけません。 少なくともこの日本ではやっていけないのです。
物作りも商売です。 商売の基本は薄利多売、つまり利を少なくたくさん売るということですから、楽して儲けようとしてはいけないのですね。 たとえわずかな金額であっても、それはお客様の労働の代価であることを、みなさんには決して忘れてほしくないのです。

物作りだけが大変なわけではありません。 どんな仕事も大変ですが、絶えずいい作品を作り続けることは、頭で考えるほど楽なことではありません。 買っていただけない作品を作ってもしょうがありませんからね。
時には 「なんでこんな商売を選んでしまったのだろう」、そう思うこともあります。 それでもやっぱり物作りはやめられませんね。 こんなにつらく、そして楽しく、喜びの大きな仕事がほかにあるでしょうか。 せっかくこうしてこの世に生まれたんだから、精一杯楽しんで人生をまっとうしたいですね。
すべての方にお薦めするわけではありませんが、あなたに努力する気持ちと、上を目指す情熱があれば、物作りで生きていくことは十分に可能なことです。 まずは腕に技術を付け、販売のノウハウを自力で学んでください。 そしていつもお客様の身になって作品を作ってくださいね。
私はこれからの人生を、物作りで食べていくためのシステム作りに費やしていくつもりです。 ひとりでも多くの方に、物作りの楽しさを知っていただくために、そしてその楽しい物作りで生きていけるように、ね。