トップページに戻ります




  
雑貨人生20数年の想い出、感じたこと、創作を愛する人へのエール といった感じのエッセイです。
雑貨屋KUMAのエッセイ 「雑貨想い出帖」 バックナンバー

   Vol,14〜Vol,59

(14以前は保存してありません)


第18回
メーカーからハンドメイド作家への転身
(2002年8月1日UP)


今回の話は前回の続きです。 メーカーとしての独立が大失敗に終わったあとで、自分が本当に作りたい物を見つけて、ハンドメイドでの製作に切り替えたいきさつと、その後の作家としての活動や様々な経験から感じたことや、困難に直面した時にどう対処してきたかなどを書いてみましょう。
これから雑貨やインテリアを売って生活をしていこうとお考えの方に、少しでも参考になれば幸いです。

前回は私の懺悔話でしたから、どよ〜んと重たかったですね。 今回は軽くいきましょう。
まぁつまりメーカーとして大失敗した私は、レジン(樹脂)を素材にハンドメイドで商品を作る道を選んだわけです。 もちろんそれが実際に商売として可能かどうかはわかりませんでした。
ただ子どもの頃から物作りが大好きだったから、「もしこれで食べていけたら・・・」という期待と夢は大きかったですね。

最初からインテリアを作りたいという気持ちはありましたが、技術がなかったので、まずは簡単なキーホルダーやバッチ、ブローチなんかから始めました。
一番最初に作ったものは、忘れもしません、「キューピーのキーホルダー」です。 なぜキューピーなのか、それはただ単に部屋に転がっていたから(笑) 本当なんです、いいかげんなヤツ。
駅前のスーパーで食品用のタッパーを買って来て、それにシリコンを流し入れてキューピーの後ろ、つまりおしりのほうを押し付けて型を取りました。 なぜ後ろなのか、それはただなんとなくで、意味なんかありませんでした。
キューピーは中が空気ですから、当然浮いてしまいますよね。 あの時はどうしたんだったかな? 文庫本でものせておいたのかな。
で、まぁ型ができてさっそくポリウレタンレジンを流し入れて成型してみました。 主剤と硬化剤を混ぜ合わせるにしても、計量カップなんかありませんから、スプーンで1杯2杯3杯なんてやってたんですよ。 今考えるとバカですね。

それでもレジンは簡単ですからちゃんと固まりました。 キューピーの後ろ半分です。
これをどうしようかと考えて、ラッカーでシルバーに塗ってみました。 そうしたらなんとなくシュールなものになったんですね。 「銀色の後ろ半分のキューピー」、なんか意味ありげでしょ?
これで何か商品にできないだろうか、と考えて、頭に穴をあけて、ボールチェーンをとおしてキーホルダーにしたんです。
なんとそれを持って雑貨屋さんに営業にいったんですから!! 我ながらいい度胸というか、バカというか。 ところが驚いたことにいくつかの店が置いてくれて、しかも売れちゃったんですよ! 当時はそういう世の中だったんです。 変わったものが求められていたんですね。

売れた金額云々ではなく、「売れた」ということが非常に嬉しかったですね。 自分の手から生まれたものが他人に買われる喜びを、そのとき初めて知りましたよ。 ホントに嬉しかったなぁ。
それで 「これはいけるんじゃないか」と思ったんです。 それから思いつくデザインをどんどん形にして、バッチやキーホルダーなんかを作っていきました。

その頃原形の素材は、子供の頃から扱い慣れたバルサ材を使っていました。 模型屋さんなんかで売っているあの軽い木ですね。 ですからシリコンで型を取る時に浮いちゃって困りましたね。 接着剤でタッパーに頑丈にくっつけたりして。
そう、その頃はまだ厚紙でまわりを覆って型を取る、という方法を思いつく前だったんですよ。 ですから大小様々な大きさのタッパーを買いましたね。

若かりし日の私はキッチュな宇宙物が大好きだったので、自然そうしたデザイン、宇宙船であったり、UFOであったり、宇宙人なんかを中心に作るようになっていきました。
またそうしたものがよく売れたんです。 ほかになかったですからね。 そんなもの作るのは私だけでしたから。
その頃から雑誌にはよく載りました。 作ったもののほとんどは紹介されたんじゃないかな。

今はデフレで値段が暴落してしまいましたが、バブル景気の直前、あるいはもう突入してた頃ですから、結構いい値段つけてもよく売れましたよ。
作るうちにだんだんとレジンの扱いにも慣れて、技術も身についていき、それにしたがって少しずつ大きなものも作るようになっていきました。
そんな時たまたま仕事仲間から、時計のムーヴメントを安く買うことができたのをきっかけに、インテリア雑貨も作るようになりました。

実は私子供の頃から時計が大好きだったんですよ。 腕時計は興味ありませんでしたが、お気に入りの置き時計、目覚まし時計をいくつも持っていました。
ですから自分の手で、自分のデザインの時計を作ることはとても楽しかったですね。 もちろん宇宙物です。(画像が第1号です)
このジオラマ風の時計は当時かなり評判になったんですよ。 monoマガジンをはじめ、いくつかの雑誌で紹介されてよく売れました。 もちろん技術的にはつたないものですが、今見ても我ながらよく作ったなと思いますよ。

宇宙柄の時計は何種類も作りましたが、そのきわめつけがネックレス時計でした。 
アラーム付きのはめ込み式ムーヴメントを取り付けた、大きなネックレスタイプの時計です。 どうしてそんなばかげたものを作ったかといいますと、とにかく何を作っても雑誌で紹介されるし、どんなものを作っても売れてしまうので、へそ曲がりな私は一度絶対に買えないものを作ってやろうと思ったんですよ。 値段は当時としても高い¥7,800−で売り出しました。 これは買えないだろうと思ってニコニコしちゃいましたよ。 素直に嬉しいと思っていればいいのに、ホントあまのじゃくですよね。

ところがですね、これが大ヒットしちゃったんです! 世の中わからないもんですよね。 考えても見てくださいよ。 首から大きな宇宙柄(宇宙人、ロケット、ロボットの3種類)のネックレスだけでも恥ずかしいのに、時計がくっついてるんですよ。しかもアラーム付きの。 どう考えたってそんなものを買う人がいるだろうとは思えませんよ。 しかし売れちゃったんです。 首からぶら下げてたんです。
さらにですね、今は解散してしまったバンド「フライング・キッズ」が、ステージで首から下げて歌ったものですから、ますます売れちゃったんです。 もうそればっかり作って、しまいには飽きちゃいました。
クラブ、DJブームの走りの頃でしたから、派手なところが受けたんでしょうね。

しかしこのネックレス時計のおかげで、技術力が飛躍的に向上したのは事実ですし、一時期かなり家計を助けてくれたんですから、今になってみると作ってよかったなぁと思いますね。

こうして3年くらいは宇宙物ばかり作っていましたが、そうしたデザインはどうしても扱ってくれる店が限られますし、自分自身もっと大人っぽいものや、インテリア雑貨を作りたくなったので、あるとき突然作風をガラッと変えてしまいました。
最初はなかなか自分の方向がよくつかめませんでしたが、あるひとつの時計をきっかけにして、独自のスタイルを作ることができました。 全体的に手間も材料もたくさん使うようになりましたから、値段も高くなりました。
私の作品のうち、フィラメントクロック、ブラックキャットミラー、ゼリービーンズミラーなどはその頃に作ったもので、それ以来ずっと作り続けている作品です。(これらの作品は以前はもっと値段が高かったんです。ネットショップに転向してから、中間マージンがかからなくなった分、値段を下げました)
自分もまわりも驚いた、突然の大転換でしたよ。 もちろんそれまで卸していた店からすべて撤退して、新しく置いてくれるところを開拓しなおさなければいけませんでしたから、かなりおもいきった冒険でした。
幸い順調に取引先も増えていったんですが、そこでバブルがはじけたんです。

バブル崩壊以降の大変さはお話になりません。 置いてくれる店はどんどん閉店してなくなっていくは、値段の高いものは買ってくれないはで、日々薄氷を踏む思いで暮らしてきました。 まったく先が見えない状態が、去年ネットショップを始めるまで続いたわけです。 長い長い長いトンネルでした。 まわりの助けや応援がなかったら、到底今の私はなかったですね。 

何を作っても売れない時期がありました。 そんなとき私は、「いい物を作れば必ず売れるはずだ。愚痴を言わずに腕を磨こう。デザインをもっと研ぎ澄ませば、きっと認めてくれる人が出てくる」と考えて、新しいテクニック、だれもやらなかった方法を考え、だれのマネでもないデザインで作品を作ろうと、それこそ歯を食いしばるようにして一日一日を乗り越えてきました。
どんなに苦しくても絶対に、絶対に妥協はしない。 人のまねもしない。 もっと楽しいインテリアを、もっとおしゃれなインテリア雑貨を作ろう。 自分にはそれができると言い聞かせて。 もうそう思うことだけが唯一の支えだったんですね。

しかしそうした経験が今「レジン教室」や「Let’s make!」、そしてもちろん作品作りに活かされているのですよ。 また多少は悩んでいる方へのアドバイスもできるのも、自分自身つらかった経験があるからだと思います。 


ネットはこれまで以上に自分を広くアピールすることができますし、チャンスも多いし大きいです。 しかし誰でも簡単にショップを持つことができるために、すでに飽和状態で自分のショップを見つけてもらうのは、砂漠に落ちた針を見つけだすのと同じくらい、むずかしいことになっています。
みなさん必死です。 「プレゼント企画始めました!」「カウプレやってます!」「新作アップしました!」「新入荷!」「見に来てください」 そんな声のひとつひとつが、私には心の悲鳴に聞こえてしまうのです。 自分がしてきた苦労とダブってしまうんですね。
苦しまないでがんばって欲しい、そう思います。

これまでの経験から私が得た教訓は、まず焦らないこと、人のまねをしないこと、絶対にレベルを下げたり妥協したりせずに、自分の足元とこれから向かう方向をしっかりと見定めて、一歩一歩進んでいくことだと私は思います。 
時間はかかります。 じれったくなりますし、どうしても焦りを感じてしまいます。 でもそれに負けないでください。そうすれば必ずその人その人に見合ったゴールが見えてくるはずです。
物を作るのは楽しいです。 しかしそれで食べていくのはとてもつらいことです。 でもきっとあなたなりの道が見つかるはずですから、くじけないでがんばってくださいね。