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雑貨人生20数年の想い出、感じたこと、創作を愛する人へのエール といった感じのエッセイです。
雑貨屋KUMAのエッセイ 「雑貨想い出帖」 バックナンバー

   Vol,14〜Vol,59

(14以前は保存してありません)


第20回
日本で若い才能が消えていくわけ
(2002年9月1日UP)

今回の内容は私自身がこれまでの雑貨人生で、実際に見てきて大きな疑問を感じていることです。 なぜ物作りで食べていけないのか、というお話です。

日本には芸大をはじめとして、美大、デザイン学校などたくさんありますよね。 そこでは当然学費を取って様々な物の作り方や、専門的な技法などを教えてくれるのだと思います。 最近ではインテリアや雑貨といったコースもあるようですね。
私はこれまでにも書いてきましたが、専門の学校を出たわけではないので、どういったカリキュラムがあるのかは知りませんが、だいたいの想像はつきます。(妻が美大出身なので)
絵画、造形、版画、グラフィック、服飾、陶芸、ガラス、金属加工、それにインテリアや雑貨。 それぞれの学校でいろんなことを教えてくれるのだと思います。
もちろんそれらの技術を習得するには時間が少なすぎるでしょうけれど、曲がりなりにもどうしたらそういう物を作ることができるか、ということは教えてくれるでしょう。

それではそうした専門の学校を出て食べていけるでしょうか? それを生業として生活して家族を養っていけるでしょうか? みなさんご承知のとおり、「できない」というのが現状です。
ではなぜできないのでしょう。 教えてもらった技術で食べていけないとしたら、それらの学校は何のために存在しているのでしょう。
これをたとえば「コンピュータ学校」に置き換えてみてください。 2年間の授業で身に付けた知識と技術で、社会に出て食べていけない、就職できないとしたらどうでしょう。 その学校に疑問を感じませんか? 私は大きな疑問を感じます。

業種が違うから一概に同じようには言えないのはわかっていますが、普通より高い学費を払って得た技術がなんの役にも立たないなんておかしいですよ。 私はそう思っています。
その一番大きな理由は「需要がない」ことです。 これは作る物の種類によって違いますが、たいていのものに言えることです。 そんなに仕事はないんです。

もうひとつは技術を習得する時間が圧倒的に足りないこと。 これは当然ですよね。 一回や二回焼物を焼いてみたところで技術が得られるわけはありません。 私事で恐縮ですが、レジンのクセを会得するのに私は10年かかりました。 これはどんな業種でも同じでしょう。 ひとつのことを身に付けるには非常に長い時間がかかるのです。
ですから学校のカリキュラムはいわばカタログのようなものですよ。 実際に体験してみてあとは自分で決めてください、そんな感じです。

そしてもうひとつは、私はこれが一番の問題だと思っているのですが、どうしたら流通にのることができるのかを教えてくれないことです。
わかりやすくいいますと、その業界全体がどういった歴史をもち、どういった流れで発展してきて、今現在どういったものが主流で、その業界全体の構図はどうなっていて、今どこが力を持っていて、どこがこれから伸びてくるのか、その業界の中枢に食い込んでいくにはどこから入って、どのように自分をアピールしていけばいいのか、ほとんどわからないまま社会に出て行かなくてはいけない、ということです。

これでもわかりにくいですね。 それでは学校でその業界の卸値の掛け率を教えてくれますか? 納品書の書き方、請求書の書き方、〆支払いの間隔(日数)、返品はどうなっているのか、仕入れはどこでしたらいいのか、そういったことを教えてくれますか?
社会に出て流通にのるには才能はもちろん必要ですが、それ以上にそういった「業界の常識」の方が重要なのです。
こう言ってもおそらくほとんどの人にはピンとこないでしょう。 そんなことはやっているうちに覚えるよ、そう言われると思います。 しかし社会に出て自分の手でお金を稼いで生活するということは、バイトをするのとは違います。 時給いくらで自分の作った物が売れるわけではないのですから、とてもそんな余裕はないんですよ。

バイトをするとだれでも時給や労働の不満を言います。 私もそうでした。 しかしわずか千円のお金でも、自分の腕で稼ぎ出そうとすると、それは非常に困難なことなんです。 そのうちに覚えればいい、そんな余裕はひとかけらもないんです。 
誰もが自分の近い将来の成功を空想に想い描き、世の中に出て行きます。 そして日々の生活費という現実に追われ、あれほど輝かしく見えていた将来への不安におびえ、早く名前を売ろうとして「これは芸術だから」などと言って何万、何十万という値をつけたりして、自分を見失って消えていくのです。 私はそうした人たち、若い才能をたくさん、たくさん見てきました。

どうして学校では高い学費をとっていながら、そこまで教えてあげないのだろう。 就職を斡旋してもそれではしょうがないじゃないか、そう思ってきました。
しかし私自身が業界である程度の位置にきてみてわかったのです。 それら専門の学校で講師をしてらっしゃる方のほとんどは、その道で食べていけない方達だということを。
これは実に失礼な言い方です。 しかし事実です。
その技術が生業として成功していたら、学校に毎日来て生徒を指導する時間があろうはずがありません。 そうでしょ? これは想像ではなく、私自身実際に見て感じたことです。
自分が流通にのれなかったのですから、それを生徒達に教えられないのは当たり前ですよ。

では社会に出て流通にのるためにはどうしたらいいのか。 まず学校をあてにしないこと。 そしてできるだけ早く自分の進む道、作りたい物を決めて、学校に通うのと平行して、その業界のことを自分で勉強してください。
それには私が以前からアドバイスしているとおり、その業種の商品を扱うショップで働くのが一番です。 バイトでも社員でもなんでもいいですから、少なくとも一年以上働いてみてください。 遠回りのようですが、これがもっとも確実で早い道です。 これは絶対に間違いありません。
まだ学生だから、とか、そのうちに、なんて悠長なことは言っていられませんよ。

これは何度も言うことですが、赤の他人のお客様からお金をいただく、ということは簡単なことではありません。 その方の労働の代価をいただくわけですから、売り手はそれに見合うだけの苦労と努力と誠意を作品につぎ込まなくてはいけません。
あなた自身がその作品を買う側に立って考えてください。 その作品をその値段で買おうと思いますか? 手間がかかったから、材料費が高いからこれくらいは取らないといけない、取ってもいいなんて考えはお客様には通用しませんよ。

ずいぶんうるさいことを言う奴だ、おまえになんか言われなくても自分の才能でやっていけるよ、そう思われるかもしれません。 そういう方はどうぞご自分の才能を信じてがんばってください。
しかしご自分の将来に不安をお持ちの方、今現在うまくいかなくてご苦労をされていらっしゃる方、どんなことでもご相談ください。 私のこれまでの15年間で得た技術も、生きていくためのノウハウもすべてお教えしますよ。
お一人で悩んでいても解決しません。 わからないこと、不安に思っていることはどんなことでもお話してみてください。 すべての方を成功に導くことはできないとは思いますが、一人で悩んでいらっしゃるよりはいいと思いますよ。


私は子供の頃から、いわゆる「古典落語」が好きでした。 そこに登場する職人達が好きだったのです。 自分の腕一本で家族を養い、あるいは自分自身を表現している人の素晴らしさに惹かれたのです。
私はかつての日本は世界で一番、いや歴史上で一番の技術を誇っていたと思っています。 その背景には「徒弟制度」というものがありました。 つまり子供のうちから奉公に入るわけですね。
今の考えではそれは非人道的に映ります。 しかし先程も書きましたが、ひとつの技術を身に付けるのには非常に長い時間が必要なのです。 学校に通う2年や4年では到底身に付けられないのです。 昔はそれがわかっていたから、下働き、手伝いをさせながらその技術を教えていったのです。

様々な技術が途絶えようとしている今、必要なのは第一線で仕事をしている人たちの技術を、次の人たちに余すことなく継承することです。
金沢でしたか、そうした取り組みを始めて学校を作った、という話を聞いたことがあります。 こうした流れが全国的に広がればいいと思いますが、実際には難しいでしょう。
ですからみなさんお一人お一人が徒弟に入ったつもりで、ご自分で勉強をなさってください。 私にできますことでしたら、どんなことでもお力になりますよ。 私のところにメールをくださいましたみなさん、そうですよね?