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雑貨人生20数年の想い出、感じたこと、創作を愛する人へのエール といった感じのエッセイです。
雑貨屋KUMAのエッセイ 「雑貨想い出帖」 バックナンバー

   Vol,14〜Vol,59

(14以前は保存してありません)


第37回
「ディスプレイの魔力」
(2003年5月16日UP)

ディスプレイの良し悪しによって、商品の売れ行きが左右されることは、みなさんご承知のとおりですよね。 もちろんそれだけにむずかしいことではあるのですが。
今回はそんなディスプレイについて、私の経験を元にちょっとお話してみましょうね。

ディスプレイにもいろいろあります。 ウィンドウディスプレイ、店頭のディスプレイ、陳列棚のディスプレイ、テーブル上のディスプレイ、写真を撮るためのディスプレイなどなど。
同じディスプレイでも、用途に合わせてそれぞれに見せ方が違いますし、目的も違います。 例えばウィンドウであれば、通りすがりの人を店内に誘導するために、大きく、美しく、派手なほど飾り付けるのでしょうし、陳列棚では買いやすくなるように並べる必要がありますし、写真用であれば、「ああ、こんな暮らしがしてみたい・・・」と思わせるような見せ方をしなくてはいけませんよね。
普段何気なく見ているディスプレイですが、実際に自分でやってみるとこれがむずかしいものなんですよ。

私がディスプレイのおもしろさを知った最初のきっかけは、高校の時にしたスーパーでのアルバイトでした。 私はそのスーパーマーケットで魚の切り身をパックしたり、練り製品や豆腐などを並べたりする仕事をしていました。
私は子供の頃から工夫することが好きで、アルバイトだから時給さえもらえればいいと、ボンヤリとはしていませんでしたよ。 どうやったら売れるだろう、ということを毎日考えて、いろいろと工夫していました。 「ポップ書き」を覚えたのもこのときです。
そして商品の並べ方によって、売れ方が違ってくることを見つけたんですね。 ではどういう並べ方にするとよく売れるのか。 お客さんの心理まで踏み込んで、いろいろと考えて工夫しているうちに、だんだん売るコツがわかってきて、そこのバイトを辞めるときには、あとに残ったパートさんたちに、「陳列の極意」(笑)のような物を書き残すまでになりましたよ。

次に私は家具の配達のバイトをしました。 たいして大きくない店でしたから、配達の暇な日もありました。 そんなときはカラーボックスを組み立てたりして時間をつぶすのですが、そうそうカラーボックスばかり作ってもしょうがありませんから、店内をぶらぶらと見てまわったりしていました。
そんなときに売れ残って値段を下げられて、店頭に出されている棚やイスなどに気が付きました。 
もちろん毎日出したりしまったりしているのは知っていましたが、「売る気がないのに、ただ習慣で並べている商品」であることに気がついたんですね。
そう思うとほこりだらけになった棚やイスたちが、なんだかかわいそうになってきて、ある暇な日に、洗剤や溶剤できれいに掃除してやりました。

拭いているうちになんだか情がうつってきて、「お前たちはいい商品だ。大丈夫きっと売れるよ」と、心の中で呼びかけたりしましたよ。
そうしたら驚いたことに、何ヶ月も売れずに邪魔者になっていた棚やイスが、その日のうちにいくつか売れてしまったんです! びっくりしましたし、滅茶苦茶嬉しかったですよぉ。
結局きれいに掃除した商品は、数日のうちにほとんど売れてしまいました。 これが私が「商品は生きている」ということに気がついたきっかけでした。
「愛情をかけなければ商品は売れない、商品は生きているんだ」 それは今でも私が第一に考えていることです。

次に私は靴屋の販売のアルバイトをしました。 初めてじかにお客さんと接する仕事で、最初はなかなか声が出ませんでしたが、慣れてくると自分が接客業に向いていることを知りました。 ほとんど毎日売上げはトップでしたよ。
余談になりますが、ヤクザ屋さんやチンピラ(死語?)さんは私の担当で、よく買っていただきましたよ。 一度などはちょっとした普段履きを買いにきた、子分をしたがえた親分さんに、23,000円の高級革靴を買わせてしまったこともありました。 喜んでましたよ、「兄ちゃん、商売がうまいな!」って。 閑話休題。

その靴屋では私に自由にディスプレイをさせてくれました。 その靴屋は大きな全国チェーン店で、陳列の仕方にもいろいろと決まりがあったんですが、さすがにのちに地区の局長になっただけあって、その店舗の店長は太っ腹で、会社のやり方を無視した陳列の仕方をしても、なにも言いませんでしたし、むしろ必要な備品などを揃えてくれたりしました。
靴のディスプレイは物が立体的であるがために、おもしろかったですよ。 特に女性のハイヒールのディスプレイは楽しかったですね。 棚全体がひとつの流れになるようにディスプレイするんです。 もちろんよく売れましたよ。
この靴屋での経験が、のちの非常に役に立ちましたね。


このコーナーで何度か書きましたとおり、私は専門学校を中退したあと、ある雑貨屋さんでアルバイトをはじめましたが、最初から雑貨が好きだったわけではありませんでしたし、雑貨というものも知りませんでした(当時は雑貨の草創期でしたから)。
最初のうちは商品のストックの場所を覚えたり、ラッピングを覚えたりするのが精一杯で、店内のディスプレイには全然興味なかったんですが、慣れてくるにしたがって、だんだんディスプレイ好きの血が騒ぎ出してきて、ちょこちょこといじるようになっていきました。

そのショップは商店街のメインストリートに面していたので、大きなウィンドウがありました。 が、ほとんど有効に活用されていなかったんですね。 なにが売りたいのかわからない状態でしたよ。 それでも毎月季節の新商品や、ギフトの提案なんかをしていました。
あるとき打ち出す物がなくなって、並べる物がなくなってしまったことがありました。 次の季節物を売り出すまで、1週間くらいポッカリとウィンドウが空くことになり、さぁどうしようか、ということになったんですね。
そこで私が手を上げたんです。 「やらせてください」と。

そこで私は「ネコ」を特集してディスプレイすることにし、店内から使えそうなポスターやパネル、ポストカードやぬいぐるみ、ネコのプリントのある商品などを集めてきて、釣り糸でパネルを吊ったり、ダンボール箱を大小さまざま並べて、上からシーツをかけたりして台を作り、いろんな商品を並べました。
「ネコは売れないよ」という大方の声に反して、このウィンドウディスプレイが大当たりしたんです。 売れる売れる、在庫がなくなって急きょ注文したり、それでも間に合わなくてウィンドウに並べているものまで売るという、店中の騒ぎになったんですよ。
このときもまた、何ヶ月もの間売れなくて、デッドストックになっていた商品をあらかた売ってしまい、「商品は生きているんだ」という考えが強くなったんです。 と同時に雑貨のディスプレイのおもしろさに気がついたときでもありました。 雑貨のディスプレイは、魚の切り身や靴とはくらべものにならないほどやりがいがあり、そして楽しかったですね。

その後あるショップの店長になり、思う存分自分のやりたいように、腕を振るってディスプレイを楽しみました。 もうこれで一生雑貨のディスプレイはしなくてもいいや、そう思うほど打ち込んだ1年半でした。
事実自分の家のインテリアなどのディスプレイはほとんどしません。 いわゆる「大工の掘建て」「紺屋の白袴」というやつで、なにもしませんよ。 もうやるだけやったから興味がなくなった、という感じですかね。

さてショップの店長からメーカーに転身し、ディスプレイとは縁のない生活が10数年続き、そしてネットショップを開設するにあたって、今度はネット上、HPの中のディスプレイをしなくていはいけなくなり、その性質がこれまで経験してきたものとは、まったく違うことに気がついてかなり戸惑いましたが、それでもやっぱり蓄積してきたことは無駄にはなりませんね、コツさえつかめば、自分のスタイルを見つけるのはそれほどむずかしいことではありませんでしたよ。 いまだに満足はしていませんが。

ネット上での商品の見せ方で多いのは、雑誌の写真のように、テーブルなどにメインの商品とともに、イメージの似通った小物やアクセサリー、食材などを一緒に並べて、ちょっと斜めに画像を撮ったり、被写界深度を浅くして、うしろにあるものをぼやかして撮ったり、あるいは印象的な雰囲気が出るように、あとでトリミングしたりした見せ方ですよね。
これは言ってみれば実店舗のウィンドウや、店頭ディスプレイにあたるものだと思っています。 印象的な画像で次のページへと誘導していく、ということですね。
そしてカタログページは陳列棚であり、商品をわかりやすくお見せする、またショッピングカートなどを設置するのは、買いやすくするためのディスプレイの一部と言えると思います。

しかしなかにはカタログページでも印象的な画像で、商品を紹介しているサイトがありますね。 私はこれは感心しません。
実店舗でも見せるためのディスプレイと、売るためのディスプレイは違います。 最初にも書きましたが、その目的によって見せ方を変えなければいけないんですね。 そうでなければ結局自己満足に終わってしまいます。
お客様が入りやすく、見やすく、そしてわかりやすいディスプレイにすること、それは実店舗でもネットショップでも変わりはないことだと思いますよ。 ましてイメージが伝わりにくいネットでもありますからね。 まぁ私自身のサイトがまだまだの状態ですから、あまりえらそうなことは言えないんですが・・・・

これから先ブロードバンド化が進めば、ネットショップのディスプレイも変わっていくでしょう。 ウィンドウディスプレイはより大きく、美しく、そして様々な効果を駆使して、お客様の目を惹くようになっていくでしょうし、カタログページでもよりわかりやすく、実際に手に取って見るのと同じくらい、高画質の画像で紹介できるようになっていくでしょう。
しかしいかに世の中が進んでも、商売はお客様の立場になって考えなければいけないことには変わりありません。 やはり自己満足で終わることなく、見せるためのディスプレイと、買っていただくためのディスプレイは、区別しなくてはいけないと思いますよ。
ちなみに私のサイトでは、上に書きましたような印象的にディスプレイした画像は掲載していません。 なぜならトップページ全体がウィンドウだと思っていますから。