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雑貨人生20数年の想い出、感じたこと、創作を愛する人へのエール といった感じのエッセイです。
雑貨屋KUMAのエッセイ 「雑貨想い出帖」 バックナンバー

   Vol,14〜Vol,59

(14以前は保存してありません)


第59回
「ネットショップへの転進で得たこと」
(2004年11月18日UP)

私がネットショップを始めてから、3年と5ヶ月が経ちました。 ネットショップへの転進を考えだしたのは、ちょうど4年前(2000年)のこと。 その頃世の中は不況のどん底で、当然私の仕事もうまくいっていず、経営状況はまさに風前の灯でした。
転職ももちろん考えましたが、物作りで生きる生活を捨てるには、なにかが足りない、そう思って、一日延ばしにしていたように思います。 そんなときにネットショップのことを知りました。

それまでパソコンにまったく興味がなく、興味がないどころかむしろ嫌いでしたね。 なにしろインターネットはおろか、パソコンにさわったこともありませんでしたから、ネットショップへ転進するには、かなり悩みました。 まったくわからないことを、初めから覚えようというんですから、決断するまでの悩みは大変なものでしたよ。 初期投資額も、当時の私にとっては莫大な金額でしたからね。 もちろん借金ですが。

決断してからパソコンのカタログをいっぱい集めて、いろいろと検討しましたが、結局のところその違いもさっぱりわかりませんでした。 このパソコンでどうやってネットショップをやるのか、いやその前にどうやってインターネットやメールをやるのかもわかりませんでした。
でももうやるしかなかったんですね。 ネット以外に物作りで生きていける道が残されていなかったんです。 私にとってこれが最後の賭けだったんですよ。 ネットショップがうまくいかなかったら、すべてをあきらめて転職するつもりでした。

パソコンを買うまで、ただカタログを見ていたわけではありません。 その当時使っていたワープロで、タッチタイピングの練習を始めました。 ソフトで練習したのではなく、テレビのニュースを見ながら、アナウンサーがしゃべることを、キーを見ないで打つんですよ。 それでニュースが終わってからチェックして、指の位置が間違っているところを見つけては、その指の動きを何度も練習する、ということを一ヶ月続けました。 そうしてパソコンが家に来たときには、ほぼタッチタイピングができるようになっていました。

それから今度はパソコンの勉強です。 笑い話のようですが、スイッチの入れ方から練習しました。 パソコン関連の本だけで2万円は使ったでしょうか。 読んでも読んでもちんぷんかんぷんで、泣きたくなりましたよ。 「これは日本語なのだろうか?」、そう思いましたね。 とにかくパソコン用語がまったくわかりませんでしたし、パソコンでなにができるのかもわかりませんでしたから。
それでもひとつひとつクリアーしていきました。 接続も設定も人を頼らず、全部自分でやり、失敗しては本を読み、やり直しては失敗しを繰り返して、メールが送れるようになるまでに、3週間かかりました。 その3週間、毎日毎晩が泣きたいような気持ちでしたよ。 とにかく必死でした。
もちろんそうした接続や設定などは、販売店やプロバイダに頼めば、やってくれることは知っていましたし、パソコンにくわしい友人もいましたから、教えてもらえばもっと早く接続できたでしょう。 でも私はこれで生きていこうと考えていましたから、最初から人を頼っては絶対に身に付かないと思って、それで必死になって覚えたんです。

ともあれインターネットに接続できるようになり、いよいよネットショップ作りを始めました。 とにかくお金のなかった私は、すべてフリーサービスを利用して、ネットショップを運営すれば得だと、そう簡単に考えていたのですよ。 ですからソフトを使わずに、Wordで作り出したんです。 Wordにはそうした簡単な機能がありますからね。 それを利用してショップ作りを始めました。
商品画像はそれまで撮りためた写真を、スキャナーで取り込んで、パソコンにアプリケーションとして付いていた、「Photoshop」のお試し版で加工しました。 これまたこのPhotoshopの使い方がわからない。 とほほ・・・ それで血迷った私は、Photoshopのヘルプを全ページプリントアウトして勉強しました。 二百数十ページあったと思いますよ。 いつまでたってもプリンターが止まらないことに、不安になったことを覚えています。 これをお読みになってお笑いになった方もいらっしゃると思いますが、その当時の私は真剣だったんですよ。
その二百数十ページのヘルプを読んで、ひとつひとつの機能の意味を勉強し、きれいな画像を作るための練習を繰り返して、それでPhotoshopを覚えました。

最初はデジカメもありませんでした。 ですからフィルムカメラで撮っては、スピードプリントの現像屋に出して、その写真を見てうまく撮れていなかったら、また撮りなおすということをしていたんです。 今思うとバカみたいですよね。
そのうちに当然ですが、これではお金と時間が無駄になることに気がついて、それでデジカメを買う決心をしたんです。 「買う決心」ですよ。 お金がなかったですからね。
それで家電量販店に行って、1時間くらい迷って、カシオの当時9800円の、おもちゃのデジカメを買ったんです。 画素数は30万画素でした。 そんなものを買うのでも、それこそ清水の舞台から飛び降りる気持ちでしたよ。

デジカメの素晴らしさには感嘆しましたね。 なにしろ買ってしまえばあとはタダですからね。 何百枚撮ってもタダですから、もっと早く買えばよかった、そう思いましたよ。
それからほとんど一日中デジカメで商品の画像を撮って、それをPhotoshopで加工する毎日でした。
これも大変でしたね。 今の私のHPのカタログを見ていただいてもわかりますが、ひとつの商品をいろんな角度から見ることができるように、何枚も載せるためには、何百枚も画像を撮り、その中からきれいに撮れている画像を選び出して、何十枚もの加工しなければいけませんでしたから、「この作業はいつまで続くのだろう・・・」、そう思いましたよ。 でもそのおかげでデジカメ撮影のコツも、Photoshopで加工するコツも覚えましたね。 とにかくこうしてひとつひとつのハードルを越えていったんですよ、自力でね。

デジカメでもうひとつ覚えたのは、近距離で撮影するコツでした。 おもちゃのデジカメですから、撮影できる範囲は、被写体からの距離が60センチから無限大で、近くに寄って撮ることができませんでした。
それでは商品のアップを撮ることができませんから、どうしても詳細が伝わりにくいんですね。 それで最初は虫眼鏡をカメラのレンズの前に、セロテープで付けて撮影しました。 これは接写にはとても有効でしたね。 時計の針や、ブロッククロックのカット面のシャープさがよく出て、それはなかなかよかったんですが、虫眼鏡ですと焦点距離がだいたい8〜9センチで、ちょっと近すぎるんですよ。
インテリア雑貨を撮る場合、被写体からの距離は、30センチくらいが一番適しているのですが、カメラの機能でも、虫眼鏡を利用してもその距離での撮影ができません。 それで思いついたのが、これまでにもお話したことがありますが、老眼鏡のレンズなんです。
「このカメラって、近づくとピントがぼやけるんだから、老眼みたいだな」と思ったのがきっかけです。 「だったら老眼鏡のレンズを、カメラのレンズの前に付ければ、近寄ってもピントが合うんじゃない?」、そう思ってすぐに100円ショップに行って、すべての度数の老眼鏡を買ってきて、レンズをはずして試してみました。
わくわくしながらパソコンに取り込んだら、これがきれいに撮れていたんですよ! 「よっしゃーっ!!」って感じでしたね。 こうして商品の撮影と、その加工もクリアーしました。

さて、ネットショップの方ですが、もちろんそんなドタバタ劇と同時進行で作っていましたよ。 最初は10ページくらい作ればいいだろうと考えていたんですが、実際に作り始めてみると、必要なページが次々と出てきて、結局30ページ以上になりました。
それでも6月には全体の構築が終わって、さぁいよいよサーバーへのアップロードです。 さっき言ったようにフリーのプロバイダの、HPスペースで営業を開始しました。
当然ですが、公開したからといってだれも来ませんよ。 カウンターなど動きません。 それでネットショップのアクセスアップにはなにが必要なのかを、本やネットで調べて、それで「相互リンク」や「メルマガ登録」、「掲示板への書き込み」「ショッピングモールへの出店」に、「検索サイトへの登録」という方法を知るわけです。
先に言っておきますが、現在ではこうしたこと(掲示板の書き込み以外)は、アクセスアップにはほとんどプラスにもなりませんよ。 しかし3年前のネット世界では、そうしたことがサイトの宣伝方法だったんです。

それでそれらのことを一つ一つやっていきました。 ネットのことをなにも知らなかった私は、いきなり当時有名だったサイトに、片っ端から相互リンクを申し込みました。 もちろん多くのサイトは相手にしてくれませんでしたが、その中のひとつ、「Interior Goods Shop」という、今でもよく知られているサイトのオーナーさんからメールをいただき、「サイト見せていただきました」というふうな書き出しで、とても細かくご注意と欠点のご指摘、そしてその改善の方法をお教えいただきました。
内容は 「Wordではレイアウトが崩れてしまう」、「フリーのサービスではお客さんが信用してくれない」、「ちゃんと商売として考えるのであれば、サーバーをレンタルして、独自ドメインを取得した方がいい」、といったことでした。 ありがたかったですよ、世間知らずの自分が非常に恥ずかしかったですが、それ以上に涙が出るほどありがたかったです。
今私がみなさんにネットショップのことや、創作のことをお教えしたり、アドバイスをさせていただいているのは、このときの恩返しのつもりなんですよ。

ありがたいご意見に従いまして、まずはサーバーをレンタルし、ドメイン「net−amazing.com」を取得しました。 最初のサーバーは、ページが開くのが遅かったので、泣きの涙で契約金をあきらめて、別のサーバーに乗り換えました。
それから友人にHP作成ソフトをもらったのをきっかけに、すでに40ページを越えていた、ショップを全部作り直しました。 この作業だけで一ヶ月が過ぎてしまいましたね。
その間も毎日アクセスログ解析をして、あっちこっちの掲示板に書き込んだり、メルマガに投稿したり、地道な宣伝を続けていました。

ネットショップを始めてから、半年ほど経ったときの平均アクセス数は、約40でした。 その頃から「Howto〜レジン教室」を、月に2回ずつ掲載するようになり、それに伴ってアクセス数も少しずつ伸びていきました。 またそれに平行して、友人のすすめにより、レジンやシリコンなどの、成型材の販売も始めました。
最初はレジンの扱い方をお教えするページが、こんなに人気ページになるなんて、考えてもいませんでしたし、もちろんこれがきっかけで講座の講師になるなんて、想像もしませんでしたよ。 しかし世の中で少しずつレジンが知られるようになるにつれて、私のネットショップのアクセス数も増え続けていきました。 もちろんその間も掲示板への書き込みを絶やしませんでしたし、少しずつバナーCMも出すようになっていました。

ネットショップを始めて1年ほどが経った頃、まだまだ軌道に乗ったとは言えませんでしたが、作品と成型材の販売で、なんとかやっていけるのではないか?という、ホッとする気持ちになりました。 先にほんの少し明かりが見え始めた感じでしたね。
その後も毎日アクセスログ解析を続け、その数字にしたがってバナーCMを出すサイトを替えたり、書き込む掲示板を替えたり、絞り込んだりしているうちに、アクセス数も100を超え、150になり、200となっていきました。

アクセス数が伸びるにしたがって、さまざまなところから声が掛かるようになりました。 もちろんその多くは雑誌や新聞への広告勧誘でしたが、そんなふうに見えるようになったんだなぁと、断りつつも感激していましたよ。
ネットには「検索」という、非常に便利な機能がありますよね。 これによって世界はとても緊密になり、あらゆるものが居ながらにして探せるようになりました。 ありがたいことに私のサイトも、検索によっていろいろな人の目に触れるようになり、そのひとつがオンドリ社の、「透明樹脂でつくる アクセサリー&雑貨」発行という仕事になり、そして本を監修したことが、講師の仕事へとつながっていきました。

ネットショップを始めて3年目にして、ようやく経営が軌道に乗り、今は生活にゆとりも生まれました。 22歳で独立してから、18年かかってようやくです。 ただ私自身の自負として、その18年間ずっと前に進み続けてきたこと、そして決して妥協しなかったことは、胸を張って言えますね。
18年という年月は、今の私を作り上げるために必要だったのでしょう。 つらいことが多かったから、今将来に不安を感じている人にアドバイスができます。 自分の力で技術と知識を積み上げてきたから、それを生きたものとして、人に教えることができます。
でも大切なのはそうした結果ではなく、そのときそのときに、「なにをしようとしたか」 だと、私は思っています。 これからも私は前だけを見つめて、さらに上を目指してがんばっていきますよ。 みなさんも 「自分がなにをしたいのか」 をお考えになって、その目的のためにがんばって、後悔のない生き方をしてくださいね。